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東京高等裁判所 昭和26年(う)3082号 判決

被告人木村の弁護人の控訴趣意第一点(事実誤認)及び被告人本田の弁護人の控訴趣意第一点(理由のくいちがい又は事実の誤認)について。

麻薬取締法第三条に所謂譲り受け譲り渡しとは売買又は贈与交換等の原因にもとずき所有権の移転を伴う無償又は有償の所持の移転を意味するものと解するを相当とする。又同法第六十二条によつて規定せられる右第三条の各行為の未遂罪は右各行為の実行の着手即ち右各行為実現に密接な行為を開始したときに成立するものと解すべきである。

よつて進んで本件における事実関係及び証拠関係を検討するに、原判決は第一事実として被告人木村の被告人桂川に対する本件麻薬たる塩酸コカイン二十五瓦入四本を販売の目的を以て譲渡した事実を第二事実の(二)として被告人本田が被告人桂川から右麻薬四本を販売を依頼されて譲り受け、中二本を外池彦太郞に対し、販売を依頼して譲り渡した事実を認定し、証拠として被告人三名の公判廷における各供述及び外池彦太郞の検察事務官及び司法警察員(二通)に対する供述調書中の各供述記載等を挙示しているのであるが被告人木村及び同桂川に対する原審第一回公判調書には被告人木村は第一回公判期日において、販売の目的を否認した外譲渡の事実を認めた旨の記載があり被告人本田に対する原審第一回公判調書にも同被告人が公訴事実は相違ないと述べた記載があるので被告人木村、同本田については譲渡、譲受の事実はこれを認め得べきが如くであるけれども被告人木村及び桂川に対する原審第三回公判(被告人本田の事件を同日併合)調書には、被告人桂川の供述として、同被告人は被告人木村から本件麻薬を買つたことなく橋渡しをしたに過ぎない旨並に所論引用のような詳細な記載があり、被告人本田の供述として、同被告人は桂川から直接本件麻薬を受取り中二本を直接外池に渡した。残り二本は若し他人の物を失くしたりしては困ると思つたので桂川にかえし、外池に渡した分はなかなか売れないので恐ろしい事情があると思い根本に尋ねると大変なことになるといわれたので外池からかえして貰つて結局全部四本共桂川に返した。その麻薬は高崎の人(被告人木村のこと)のものと思つた旨並に所論引用のような詳細な記載があり、外池彦太郞に対する検察事務官及び司法警察員の供述調書中には所論引用のように、本田から本件麻薬二本を預つて来たが売れないのでこれを本田にかえした趣旨の記載があるに過ぎないので前記起訴状朗読直後の公訴事実の認否の際の供述以外には被告人木村及び同本田について、前記説明の意味の譲渡並に譲受の事実はこれを認めるに足る資料がなく、右公訴事実認否の際の陳述は所論引用の各記載と矛盾するものがあり、彼此対照検討すると所論引用の各記載の方が措信するに足るものであり、結局被告人木村同本田の本件麻薬の譲渡並に譲受の事実はこれを確認するに足らぬものといわなければならない。尤も被告人木村と被告人桂川との間、被告人桂川と被告人本田との間被告人本田と外池との間に本件麻薬が授受されその間に順次所持の移転が行われ、而もいずれも売却を依頼し又はこれを承認してその授受が行われたことは前記の各証拠並に記録を通じ優にこれを認めることができるけれども未だ以て、所有権の移転をも伴う譲渡、譲受が確定的にあつたものとは認め難い。しかしながら右の被告人木村の本件麻薬の売却を依頼して所持の移転を為すこと、又は未だ所持の移転はなくとも確定的に売買契約等を締結することは前記譲り渡しに該当する売渡の実現に密接な行為をしたものと考えられるからその段階において既に麻薬取締法第六十二条の譲り渡し未遂罪を構成するものと解するを相当とし、売却の依頼を承諾してこれを斡旋し売却の相手方を見つけるため所持の移転を受けた者は譲受又はその未遂罪は成立しなくとも、所持既遂罪を構成することが明かであり、売買契約等の相手方となつた買主、受贈者等で所持の移転を受けない者は、譲受の未遂罪に該当するものというべきであるから所論はこの点においては失当である。

以上説明のとおり原審には証拠の価値判断を誤まり、本件麻薬の譲渡、譲受の事実を認定するに不充分な証拠を以てこれを認定した不法があり、その結果事実の誤認を来たしたものというべく、右の誤認は、判決に影響を及ぼすことが明かであるから、所論は結局理由があり原判決はこの点において破棄を免れない。

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